大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成4年(ワ)10493号 判決

原告

高山真喜子

被告

木村隆仁

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自、金四一〇万二〇九二円及び内金三七三万二〇九二円に対する平成元年一二月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告の、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自、金四二〇九万四二〇〇円及び内金三八二九万〇二〇〇円に対する平成元年一二月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実及び証拠によつて容易に認定できる事実

1  本件事故の発生(争いなし)

平成元年一二月二三日午前一時五五分ころ、千葉県長生郡長柄町山根一二〇一番地先路上において、被告木村隆仁が運転する普通乗用自動車(登録番号「足立五二も九四六七」、以下、「被告車」という。)が、スリツプしてセンターラインを越して対向車線にはみ出し、対向車線を走行してきた原告同乗の普通乗用自動車(登録番号「岩手四〇け五二七七」、以下、「原告車」という。)と正面衝突した。

2  原告の受傷内容

原告は、本件事故により、頭部・顔面・右大腿打撲挫創、両大腿・膝・左下腿打撲擦過創、胸部・右上腕・右手打撲症(以上争いなし)、頸部捻挫(甲二)の傷害を負つたほか、歯牙破損の障害(争いなし)を負つた。そして、顔面に醜状を残し(症状固定日は平成二年七月二四日)、自賠責保険において、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)施行令別表の七級一二号の認定を受けた。

3  責任原因(争いなし)

(一) 被告菊地浩は、本件事故当時、被告車を保有し、これを自己のため運行の用に供していた。

(二) 被告木村隆仁は、本件事故現場が湾曲していたのであるから、道路状況に応じた的確な運転操作を行うべき注意義務があるのに、これを怠り、被告車をスリツプさせて本件事故を惹き起こした。

よつて、原告に対し、被告菊地は自賠法三条本文による、被告木村は民法七〇九条による、それぞれ損害賠償債務に基づき、各自、後記認定の損害額及びこれに対する遅延損害金の支払いをすべき義務がある。

4  損害の填補

原告に対し、自賠責保険金九四九万円(争いのない事実)のほかに、一七六万五九六〇円(乙一の一ないし三、乙二)、合計一一二五万五九六〇円が支払われた(他に治療費、職業付添人の看護料の支払があるが、これに相当する費用は原告の請求にはないから、填補の関係にならない。)。

二  争点 損害

1  原告は、〈1〉入院雑費、〈2〉付添看護料、〈3〉通院交通費、〈4〉主婦兼スナツクホステスとしての休業損害、〈5〉顔面醜状及び歯牙破損の後遺障害による逸失利益、〈6〉慰謝料(傷害分、後遺障害分)及び〈6〉弁護士費用相当損害金を請求する。

2  これに対し、被告は、各損害額を争うが、特に、原告の逸失利益について、原告の後遺障害は労働能力に影響しないから認められない旨主張する。

第三争点に対する判断

一  原告の治療経過

原告は、前記第二の一2のとおりの受傷により、本件事故日である平成元年一二月二三日から平成二年一月二五日まで三四日間、宍倉病院に入院し、次いで、翌日から同年七月二四日まで通院(実通院日数一一日)して治療を受けた(争いなし)。また、歯牙破損の治療のため、日本歯科診療所(甲一一の二、三)などのほか、平成二年六月四日から平成三年九月一七日まで医療法人社団石井歯科に通院した(争いなし)。

二  後遺障害の内容

1  争いのない事実及び証拠(甲九、一〇、原告本人尋問の結果)によれば、原告の顔面には、眉間上部分から両目の間ないし鼻にかけて瘢痕(鶏卵大面以上の大きさ)が残つており、特に両目の間から鼻にかけての部分はえぐられていて目立つ状況にある。

2  なお、歯牙の障害については、証拠(甲一一の三)によれば、本件事故による欠損は一歯であつたものと推認できるから、自賠責保険における後遺障害には該当しない。

三  損害額

1  入院雑費 四万〇八〇〇円

(請求 同額)

原告の入院日数は三四日であり、弁論の全趣旨によれば一日あたり一二〇〇円の雑費を損害と認めるのが相当であるから、合計は頭書金額となる。

2  付添看護料 認められない

(請求 一五万三〇〇〇円)

原告が入院していた間付添いが必要であつた(甲二)ので、家政婦を依頼したことが認められる(原告)けれども、関係証拠によつても、更に近親者による入院付添費用まで認めるだけの必要性は乏しいから、これを認めることはできない。

3  通院交通費 認められない

(請求 二万二四〇〇円)

通院交通費を認めるに足りる証拠がない。

4  休業損害 一五五万五五一六円

(請求 同額)

証拠(甲七ないし甲九、原告)によれば、原告は、本件事故当時、夫と長男と暮らし家事を行うかたわら、スナツク「明るい農村」においてホステスとして勤務しており、月額二一万円の収入を得ていたこと、しかるに、本件事故による治療期間中、右スナツクの仕事を休み、また、家事も原告の母親らに依頼せざるを得なかつたことが認められる。以上によれば、賃金センサス平成元年第一巻第一表・産業計・企業規模計・女子労働者の全年齢平均の年収額二六五万三一〇〇円を基礎として、症状固定日までの二一四日間の休業損害を算定するのが相当であり、金額は次のとおりとなる(円未満切捨て)。

2653100÷365×214=1555516

5  後遺障害による逸失利益 三八九万一七三六円

(請求 三六〇三万九四八四円)

証拠(甲九、一〇、原告)によれば、原告は、二二歳のころからスナツクに勤めており、本件事故当時は夫の収入が安定しないので生活を支えるためにホステスをしていたこと、本件事故によつて前記二1のとおりの後遺障害を残し、瘢痕のことを聞かれることが嫌で、また、客と対面して話すことにも気がひけることからスナツク勤務を辞めたこと、本件事故に遭わなければスナツク勤めを続けるつもりであつたことの事実が認められる。他方、原告は昭和三四年一一月二五日生まれ、本件事故当時三〇歳であり、職種からして稼働年数には限度があり、「明るい農村」に勤めるホステスは四二歳程度までであること、化粧をすると眉間の傷は目立たなくなり、見えるのは目・鼻の部分だけのさほど広くない範囲にとどまり(この部分だけであれば、自賠法施行令別表の一二級に該当するかどうか程度である。)、ホステスの業務に重大な支障をきたすものとも見受けられないこと、スナツクを辞めたのは勧告されたからではないこと、本件事故後に出産をしており、パート勤めをしているとはいえ現在は育児にもかなりの時間を要することの各事実が認められる。以上を総合すると、家事労働分の喪失は認められないものの、ホステス収入の減収分については前記二1の後遺障害との間に相当因果関係があるというべきである。そして、減収が認められるホステスの稼働年数としては、三〇歳から四二歳までのうち育児期間を考慮して一〇年間とするのが相当であり、また、後遺障害の程度とそれによつて仕事に影響する度合い等を斟酌すると、本件事故当時のホステス収入月額二一万円の二〇パーセントを喪失するものとみるのが相当である。

そこで、中間利息をライプニツツ方式(一〇年に相当する係数七・七二一七)により控除して、本件事故時における逸失利益の現価を算出すると次のとおりとなる(円未満切捨て)。

210000××12×20%×7.7217=3891736

6  慰謝料 九五〇万〇〇〇〇円

(請求 傷害分・一五〇万円、後遺障害分・一〇〇〇万円)

原告の受傷の内容・程度、治療状況は前記一のとおりであり、入院日数三四日、実通院日数一一日であり、このほかに歯の治療も行つている。この入通院状況に加え、加害者の一方的な過失により受傷したという本件事故態様に鑑みると、傷害慰謝料としては一〇〇万円が相当である。また、後遺障害の内容・程度、部位は前記第二の一2並びに第三の二及び三5のとおりであり、最近は外出にも気が進まないなど原告に与えた精神的な苦痛は甚大である。以上に加え、ホステスも辞めた結果将来の生活設計も変つてしまつたことその他諸般の事情を加え総合斟酌すると、後遺障害慰謝料として八五〇万円が相当である。

7  合計 一四九八万八〇五二円

四  填補後の残額 三七三万二〇九二円

五  弁護士費用相当損害金 三七万〇〇〇〇円

六  総計 四一〇万二〇九二円

七  以上の次第で、原告の本訴請求は、被告ら各自に対し、金四一〇万二〇九二円及び内金三七三万二〇九二円に対する不正行為の日である平成元年一二月二三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小西義博)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例